『図書館戦争』『図書館の内乱』『レインツリーの国』
『図書館戦争』(有吉浩 メディアワークス 2006.3.5初版 2006.9.30 7刷。)『図書館内乱』(有吉浩 メディアワークス 2006.9.30 初版)『レインツリーの国』(有吉浩 新潮社 2006.9.30 初版。)を読みました。
この三作品は図書館戦争物とでも名づけられる前二作品とそこから派生した恋愛小説『レインツリーの国』に分かれる。この派生作品は図書館物の小道具として使われた、つまり本編では書名しか登場していない作品に作者が内容を付与したもので、独立した作品である。
二冊の図書館戦争物は近未来小説である。昭和の末期にメディア良化法が成立し、検閲が制度化されている一方で、図書館法に図書館の自由に関する法令が加わり、図書館がメディア良化法に対抗する法的根拠ができている。メディア良化法に基づくメディア良化委員会が法務省に設置され、都道府県にメディア良化特務機関を開設し、秘密警察めいた検閲権を発動する。一方図書館はメディア良化特務機関と対抗する図書隊という武装組織を持つに至り、これが図書館への検閲や没収に対抗して武力衝突が始まるのである。とくに「日野の悲劇」と呼ばれる日野図書館での大衝突の後、図書館隊も軍事力を整え、戦闘力を高める。その時期の図書隊新入隊員である一人の若い女性が主人公となって本編は展開している。
『レインツリーの国』は『図書館内乱』の彼女の先輩図書隊員とその幼馴染のエピソードに登場する図書である。彼は幼馴染の、耳の不自由な娘にこの本を薦めたのだが、それがメディア良化に反するという嫌疑に発展し、彼は良化特務機関に逮捕されてしまうのである。その本が一体どんな本かというところで、作られたのがこの本なのだ。
先にも述べた通り、『レインツリーの国』は一連の図書館抗争と切り離して読むことが出来る。これはメールとネットを通じた恋愛小説であり、出会いがネット上で始まっていて、恋愛の進行もメール交換によって深まって行く。最初に出会いがあった『電車男』とは違って、むしろ古典的な書簡体小説に近いのである。レインツリーという命名に『頭の良いレインツリー』との関係を考えたが、特になさそうだ。あえて言えば『頭の良い』方の前半にあるコミュニケーションの不全が関わるかも知れないが、特に意識した作品とは思えない。
二人のネット上での出合いは、『フェアリーゲーム』というライトノベルについての意見交換だ。このエンディングをめぐる二人のメール交換が恋ごころを育てて行く。この『フェアリーゲーム』も作中作品であり、これがまた出版される事になるのかも知れないが(『妖精作戦』がモデルなのだから、それはないか)、二人の間では、ハッピーエンドではなかった終わり方が話題になっている。ライトノベルの読者としてはひどく不満な終わりなのだが、現実回帰と成長を促す物語りとして受け取れるものであったようだ。
ずいぶん前に、簡単な『オバQ・ドラえもん』論を小学館の『本の窓』に書いた事があったが、それ以来、児童文学の終わり方について考えていることがあった。その書いたものが見つかったらこのブログに載せようと思うが、『フェアリーゲーム』の構成は、それに通じるところがあるように思えるのだ。
一見ありえない設定の『図書館の内乱』が現実志向のある作中作を伴っているのは一種のねじれだが、図書館戦争ものは漫画化しても良いくらい、巧い構成とキャラクターの魅力が直截に出ている。その上、荒唐無稽のように見えて、奇妙に現実感がある。それは、世の中が、こんなことにはならないだろうけれど、よく似た状況が考えられるという現実感である。
作中にあるメディア良化法と図書館法の拡張は矛盾した法律である。多分、法の意識が厳しい社会であれば、この矛盾は作品の致命的な欠陥とされただろう。しかし、日本の多くの読者はこれを矛盾と見ないと思う。ありうる事とみなしそうだ。日本の法意識には法を絶対視する意識が乏しいからだ。それは司法からの憲法違反判決を、容易に無視する行政の態度にも表れている。こうした社会にコンプライアンスを求めることは無理だろう。法の矛盾に馴れてしまい、一方で特別高等警察もどきの現場視察などを行政命令として行っている現状に、公務員の特別権力関係を定めていた戦前の意識がそのまま活きている。
日常的に法意識の曖昧さと権力関係の硬直とを、小さな矛盾として抱え込んでいる読者の意識は、本来的な民主主義によって培われた意識と、集権的な現実とに分割されているのである。図書館司書が武装して特殊部隊と戦闘を繰り広げるという、リアリティの無い設定であっても、行政の集権的な権力行使に不快感や不安をもっている読者には、この作品での図書館隊の姿に快哉を送ることになる。ただ、この抗争の中で、良化部隊の人物達が描かれていないことは残念である。彼らの行動論理を記述することで作品は深くなりそうだ。
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コメント
アニメが始まりましたね。なかなか良く出来てます。毎週見るのは無理ですが、飛び飛びにでも見たいと思います。レインツリーなどはどう処理するのかな。
投稿: じぶん | 2008/04/12 17:35