読みました。『彼方』(J-K・ユイスマン 田辺貞之助 創元推理文庫 1975.3.28初版 2005.5.20 13版 4-488-52401-X)
主人公の作家デュルタルは、ジャンヌダルクを支持して戦い、後に悪魔的所業で魔術の世界に入り込み、青髭の異名をとったジル・ド・レーの伝記をまとめている。その伝記と執筆の過程に起こる出来事がこの作品になっている。
友人で医師のデ・ゼルミーとはしょっちゅう鐘撞のカレーの部屋に出かけ、料理や酒を持ち寄って小さな宴会を開くのだが、カレーは鐘について中世的知識の宝庫であり、鐘撞という職種が近代化していくことに反抗している。カレーの小宴会の参加者である占星術師の存在といい、近代的な現実からは背を向けた仲間達だ。
同業者の妻で彼に言い寄るシャントヌーヴ夫人イヤサントを通じて修道士ドヌーヴの黒ミサに出かけるなどロマン主義的ともいえるだろう。しかし、夫人との情事を熱望しながら、「満ちたりあとの気持ちから考えれば事前の欲望が希薄だった」とすぐ醒めたり、「愛情を受ける前にはやくも倦怠を覚え、受けたあとではかえって嫌悪を感じる有様」というデサントの心理は「芸術をのぞいては、あらゆることが、程度の差こそあれ、すべて無味乾燥な娯楽であり、空虚な慰安にしかすぎない」(p251)と、欲望の充足からもずれている。これがユイスマンをカトリックに回帰させる要因かも知れない。
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