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2009/01/17

『岡田啓介回顧録』(岡田啓介 岡田貞寛編 中公文庫 昭和62.3.25印刷 62.4.10発行。ISBN4-12-201414-X)読みました。

 二・二・六事件の総理大臣、岡田啓介が毎日新聞の求めに応じて語った自伝とロンドン軍縮会議期間の日記から本書は成っている。古波蔵保好の解説によれば昭和二十五年ごろに行われた取材だから、主要な事件からそんなに時間を隔てては居ない。逆にその分だけ公表を控えた部分があったかも知れない。
 たとえ不十分なものであっても、二・二・六に関しては直接当事者であるし、終戦間近の東条おろしでは立役者であったのだから、聞くべきところは十分にある。小さな出来事でも臨場感のあるエピソードがたくさんある。首相官邸襲撃では、反乱軍は、岡田首相と間違ちがえて義弟の松尾伝蔵を殺してしまう。首相はその間に女中部屋にかくまわれた。官邸が占拠されたまま、首相秘書官などが反乱軍の許可を得て官邸に来て、首相の遺体を確認するが、別人であることが分かる。秘書官だった迫水久常は女中の一人、おさくさんに「怪我は無かったかね?」と問いかけるのだが、彼女は「はい、お怪我はございませんでした」と答えるのである。これで迫水は、首相は女中部屋にかくまわれているとピンと来たのである。今だったら、自分に「お怪我...」は平気で言うし、それを聞いても「また間違ってらぁ」位の感想しか起こらないだろうから、首相は下手をすると助からない。
 岡田は日中戦争は早期終結を日米戦は回避を望んでいたが、自ら軍人であっても軍部の独走は止められなかった。満州某重大事件、つまり張作霖爆死事件を記した日記には、「各新聞社には、金と威圧にて各社震え上がりおり、朝日の如きは読者三十万減じたりと言う、朝日少しく陸軍に都合悪しきことを書くや、在郷軍人に檄し不買せしめたりと、そのため朝日は三十万を称するも少なくも十万は減ずるならん」という人づての情報が記されている。新聞同様、彼も世論の流れに抵抗することが出来なかったわけで、朝日にかかる圧力が他人事ではなかったのだろう。

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